2005年4月1日
 大阪〜京都〜滋賀、とっておきの味めぐり 
日本で唯一、湖に浮かぶ有人島

 滋賀県・近江八幡市の対岸から約2キロの距離にある沖島は、日本で唯一、湖に浮かぶ有人島として知られている。人口は約450名。湖にある島でこれだけの人口がある場所は、世界でも稀なのだそうだ。

 近江八幡駅から車で20分。沖島への通船は堀切新港という港から出ている。ここには何十隻もの船が停泊、沖島住民たちのパーキングのような役割を果たしている。「島の住民は1家に1隻、船を持っているからね。車がわりだよ」。港で出逢った島の住民が教えてくれた。

 中高生や観光客は、乗り合いの船で行き来する。20名乗れば満席になりそうな小さな船は、波を跳ね上げながら沖島港へと向かっていく。湖と聞くと、波穏やかというイメージがあったのだが、さすがに日本一の湖、船室の窓を打ちつけるほどの波が立っている。

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漁業会館で小さな売店を開いている婦人部のみなさん。まさに手作りの品々が並んでいた

 約10分で沖島港へ到着。港の近くには、木造民家が並び、いかにも漁村らしいたたずまい。すぐそばにあるコンクリートの建物は漁業会館。ここに、机を置いただけの小さな売店が出ていた。「沖島湖島婦貴の会」(おきしまことぶきのかい)という、婦人部30数名がやっている売店だ。

 机の上にはお手玉やワラジなど手作り小物が数点並んでいる。「魚は奥にしまってあるのよ」、お客さんが来ると、奥から商品を運び出してくれる。「これはワカサギ、こっちはイシ貝、エビ豆にハス」。ワカサギ以外、初めて目にするものばかり。どれも琵琶湖でとれた魚を佃煮風に加工したものなのだそうだ。

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こんな細い路地の間を歩いていく。迷路に迷い込んだような不思議な感覚にとらわれてしまった

 港から左へと向かい民家の中へと進んでいく。2階建ての家がぎっしりと密集していて、道は人1人がやっと通れるぐらいの細さ。「島には車は1台もない」とは聞いていたが、確かにこの道幅だと車は必要ない。すぐそこの窓辺に洗濯物が干してあったり、戸口でお米をとぐおばあちゃんの姿があったり、初めて来た場所なのに、なぜか懐かしさがこみ上げてくる。昔の日本がそのままここに残っているといった印象なのだ。

 路地を進んで数分で湖の反対側へと出る。こちらは湖岸すぐに道があり、家が並んでいる。歩いていても時折、波しぶきが飛んできて、思わず足がすくんでしまいそうになる。湖に面した民家の1軒が目指す食事処「瀬戸や」。小さな看板を見つけ、ほっと安心、「こんにちは」と声を掛けた。

琵琶湖・沖島で湖国の春をいただく
「このフナ、臭いと感じた人にはお金を返します」
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料理をする奥村さんご夫婦。自分たちがとってきたものだけに、1品ずつ愛情を持って調理している様子がうかがえた

「瀬戸や」は、3年前、あるテレビ番組から誕生した食事処。親戚にあたる久田さん・奥村さん夫婦4人で切り盛りしている。食事場所は久田さんの家のお座敷。予約をしておいたため、すでにずらりと料理が並んでいる。「あとは揚げ物やみそ汁を作るだけ。少し待っていてくださいね」と奥村さん。調理場は別棟。そちらにもおじゃまして、作るところを見せていただいた。

 調理場では久田さん夫婦が揚げ物の準備をしていた。「これはカジカ、こっちはイサザにワカサギ。切り身になっているのは鯉。鯉は下味を付けて揚げるんです」とご主人。カジカもイサザも指の長さぐらいの小さな魚。頭ごと食べられる。隣では奥さんがみそ汁の準備中。「これ琵琶湖でとれたシジミなの。いい味が出るのよ」。ぷっくり丸い形をしたシジミは、色も黒く、輸入物とは違う貝のようだ。


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衝撃の味だったフナのタタキ。生臭さがなくきれいな水の香りがした

 お座敷に帰り、できあがった料理を説明してもらう。今回は5000円のメニューをお願いした。「5000円だと15品。モロコの焼き物や鮒鮨、ニゴロブナのタタキ、鯉の刺身にワカサギの南蛮、チグエビの唐揚げにイシ貝の佃煮、鯉の甘露煮、シジミのみそ汁、今作っている揚げ物。3品盛りになっているのは小魚とエビ豆、小ハスです。これにカボチャの煮付けやサラダ、ご飯、漬け物が付きます」。

 魚介はすべて琵琶湖産。久田さんと奥村さんがとってきた紛いのない天然ものだ。「メニューは、日によって変わってくるんです。5月に入るととれる魚も変わってきて、天然うなぎの造りやら蒲焼きなども出てきます」。

 座卓一面に並ぶ魚・魚・魚…。そのほとんどが初めて口にするものばかり。まずは馴染みのある鯉の甘露煮から。10センチはあろうかという厚みの甘露煮は、中までしっかり味がしみている。臭みはまったくない。身の間には白子が入っていて、ねっとり舌に絡みつく。これはおいしい! 


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テーブルが見えないほどの量。これで5000円(1人前)。食べきれない人のため持ち帰り用のパックも用意

 お次はフナのタタキ。生のフナということで恐る恐る口に運んだのだが…。いや、驚いた! 生臭さが微塵もないのだ。きれいな水の香りと淡泊な旨味がつまっていて、食べているうちにこれがフナであるということを忘れてしまう。「タタキはオスのフナなんです。メスは鮒鮨にするんですよ。フナは臭いと思ってる人が多いんですが、ウチのはとれたてなので臭みがない。臭いと感じた方にはお金を返しますよ」と久田さん。

 鯉の刺身も同様。こりこりとした身は何もつけなくても食べられるほど新鮮だ。「鯉は酢みそで食べるところが多いですが、それは身の臭みを消すため。ウチのはワサビ醤油だけで十分なんです」。

 アサリをさらに濃くしたような旨味があるイシ貝、子持ちのワカサギに、やわらかな白身のモロコ、クセになりそうな鮒鮨…。今まで抱いていた淡水魚のイメージがお腹の底からひっくり返った。とれたてをいただくというのが足の早い淡水魚の場合、特に大切なのだろう。便利とは言い難い場所ではあるが、ぜひぜひ足を運んで、自分の舌で味わってみて欲しい。

子ふなのたたき、、、通称 沖島の方言でジョギといわれている
寒い冬場のさかなはおいしい、12月10ごろ〜3月末まで(水深80mの深水に住んでいるふなである)
  4月になると少しづつ浅い水深にやってくる そのあさせに近寄ってきた魚は味が落ちる
 ジョギは3月までに食べると最高の味がする
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